2026/10/03
今あるものを、これからも大切に。イタリアの街再生で考えた「本当の価値」
INDEX
同居の距離を、心地よく整えるために。
家族やパートナーとの関係が、
すっと軽くなる視点を届けます。
心地よい同居へのヒントを、そっと集めています。
窓を開けると、向かいの山が遠くに見えました。
窓枠に切り取られた風景は、まるで一枚の絵画のよう。
室内の落ち着いた照明と相まって、自然とゆったりした気分になります。
2026年9月、イタリアのアブルッツォ州とモリーゼ州を巡る視察に参加しました。
今回ご紹介するのは、山間の街、カステル・デル・ジュディーチェでの体験です。
宿泊したのは、街の既存の建物を活用したホテル「ボルゴトゥーフィ・アルベルゴ・ディフーゾ」。
ここで泊まり、市長さんやデザイナーさんと街を歩く中で、これからの家づくりでも大切にしたいことに出会いました。

元は牛小屋だった建物に泊まる
私たちが泊まった客室は、元は牛小屋だったと聞きました。
外壁にはさまざまな形や色の石が重なり、石の階段を上がった先に客室の入口があります。
室内にも石壁があり、木の梁や天井、ロフトへ上がる階段と組み合わされていました。
石壁に光が当たると、一つひとつの凹凸が浮かび上がります。
均一ではない表情が、その空間の魅力になっているように感じました。
以前は家畜のために使われていた場所で、今は旅人がくつろぎ、眠る。建物が新しい役割を持ち、使われ続けていることに、リノベーションの可能性を感じます。


一方で、滞在中に設備の不便さは感じませんでした。シャワーや洗面、トイレなどは整えられ、室内にはダイキンのエアコンも設置されていました。
素材の風合いを感じる空間で、今の設備を使いながら快適に過ごす。
その組み合わせが、とても自然でした。



街の未来を、長い時間をかけてつくる
今回の視察では、市長さんやデザイナーさんから、過疎化した街を再び活性化させるための取り組みについてお話を伺いました。
街を歩きながら見せていただいたのは、宿泊施設だけではありません。新しく整備するショップや工事中の建物、見晴らしのよい場所につくられた舞台など、街のこれからにつながる場所もありました。
山間の街ならではの景色を生かし、イベントを開催する。そこで過ごしたい、訪れてみたいと思えるきっかけをつくる。
魅力的な場所や催しがあれば、人が来る。
そのために、街にあるよさを見つめ、具体的な形にしているのだと感じました。


そして印象的だったのは、こうした活動を10年、20年という単位で続けていることです。
一つの建物を改修することも大きな仕事ですが、その先でどのように使われ、人が訪れ、街の暮らしにつながっていくのか。
長い時間を見据えて取り組む姿勢に、深く共感しました。
昔の街の写真と、目の前の街並みを見比べると、その積み重ねを考えずにはいられませんでした。


石を生かし、鉄骨で支える。その手間に込められた想い
建築に携わる者として、特に感銘を受けたのは、材料や工法へのこだわりです。
デザイナーさんからは、外壁の石をできるだけ生かしながら、必要な部分には新しい石を加えるというお話を聞きました。
地元ならではの材料や工法、職人の仕事を大切にし、街の景観を受け継ごうとしていました。
建物内部では、頑丈なH鋼の鉄骨を使った耐震補強についても説明を受けました。
客室にも、石壁のそばに立つ鉄骨柱や、木の梁に沿って納まる鉄骨が見られます。
石、木、鉄。それぞれの素材が、その姿を見せながら一つの空間をつくっていました。
外壁の石に加え、建物を支える鉄骨にも、素材としてのよさを感じました。



正直なところ、新しく造り替えた方が、もっと早く、手間も少なく済むのではないかと思いました。
しかし、それでも既存の建物を生かすのは、この素晴らしい景観や文化を引き継ぐため。
そのこだわりを聞いて、見ていた建物の印象が変わりました。
残っている石を大切にし、必要な強さを加え、これからも使えるようにする。
手間をかける理由が、街の未来につながっていたことに感動しました。
ファルソバローレから考える、本当の価値
視察中、私の心に残ったのが「ファルソバローレ」という言葉です。
「ファルソバローレ」は、イタリア語の “falso valore”(偽りの価値、偽りの値)を意味します。
私はこの言葉を、見た目ではそれらしく感じられても、その背景や素材の実質が伴っていない価値を考えるきっかけとして受け止めました。
修復に関する説明では、新しい石を古いものに近い形へ加工することもできる一方、どこが既存で、どこを新しく補ったのかを分かるようにする考え方についても伺いました。
古いものには、それまで積み重ねてきた時間があります。
新しく加えたものには、今回の改修で担う役割があります。その違いにも誠実であろうとする姿勢が、印象に残りました。
最近は、インスタ映えなど、写真で見たときのよさに注目が集まりがちです。
美しいデザインは大切ですが、長く使ったときにどう感じられるかも、同じように考えたいと思います。
今回の石壁や鉄骨を見て、素材が持つそのままの価値を表現することが、年月を経ても大切にしたいと思える空間につながるのではないかと感じました。
私にとって「本当の価値」を考えることは、素材や建物の背景を知り、そのよさを生かして使い続けることにつながっています。
夕方の街で出会った、塗装職人のホセさん
滞在中には、別の客室の木のドアを塗装している職人さんにも出会いました。
お名前はホセさん。ペルーから仕事に来ているそうで、少しお話をすることができました。
夕方、暗くなってきても、丁寧に作業を続けている姿が印象に残っています。
ホセさんは、外国から働きに来られる環境がありがたい、という趣旨のお話をされていました。


市長さんやデザイナーさんが描く街の未来。その現場には、実際に手を動かす職人さんがいます。
地域の文化を受け継ぐ仕事に、遠くから来た人も関わっている。
その出会いによって、街の再生を、働く人の姿からも感じることができました。
木のドアを丁寧に塗る作業は、建物を使い続けるための手入れでもあります。
建物の魅力は、こうした日々の仕事によって支えられているのだと思いました。
今あるものも、これからつくるものも、長く大切に
今回の視察で持ち帰ったのは、二つの気持ちです。
今あるものを、大切に使い続けること。
そして、新しくつくるものも、長く使い続けるつもりで計画すること。
実家のリノベーションでも、今の家にどんなよさがあるのかを、まず見つめたいと思います。
残して生かせるものを考えながら、耐震性や設備、間取りなど、これからの暮らしに必要な部分を整える。
材料やデザインを選ぶときにも、その後の長い時間を想像したいです。
10年後、20年後、家族の暮らしはどう変わるのか。
どのように手入れし、使い続けていけるのか。
そのときにも、この家を大切にしたいと思えるだろうか。
目の前の仕上がりと、その先の暮らしを一緒に考えることが、長く愛着を持てる住まいにつながるのだと思います。

イタリアの山間の街で見たのは、建物に新しい役割を与え、人が訪れるきっかけをつくり、手をかけながら未来へつないでいく姿でした。
Lakkeの家づくりでも、今ある家の価値を見つめ、ご家族がこれから大切にできる住まいへつないでいきたいと思います。
Bravissimo!な同居リノベで、これからも、つなぐ。
今回の旅は、この言葉に込めたい想いを、具体的な景色と人の姿で感じる機会になりました。
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